久々(ひさびさ)わが家 わずか二時間

避難(ひなん)住民が「一時帰宅(きたく)

 

 福島(ふくしま)第一原子力発電所の近くから避難(ひなん)していた住民が、二時間に限って自宅(じたく)に戻ることができる「一時帰宅」が始まりました。

 事故を起こして放射性物質(ほうしゃせいぶっしつ)()れ出し続けている原発(げんぱつ)から半径(はんけい)二十キロの中は、もともと「避難指示区域(ひなんしじくいき)」に指定されていて、住民は遠くに避難していました。しかし、避難指示(しじ)区域(くいき)の中に入っても(ばっ)せられることはなかったので、避難している人たちが、()っている牛の世話をしたり、家に荷物を取りに戻ったりすることがありました。ただ、放射性物質は漏れ出し続けているので危険なために、四月二十二日に、原発から半径二十キロの中は、法律によって立ち入りが禁止(きんし)される「警戒区域(けいかいくいき)」に変わったのです。警戒区域に続く道には警察官(けいさつかん)が立つようになり、自由に出入りできなくなりました。許可がないのにこの区域に入ると罰せられる場合もあります。

 ただ、避難生活が長引いてくると、警戒(けいかい)区域の外に避難している人たちからは、「銀行からお金を引き出すための印鑑(いんかん)通帳(つうちょう)がいる」「大切なアルバムを取りに戻りたい」などという要望(ようぼう)が高まってきました。このために、二時間に限って一時帰宅が認められたのです。

防護服を着用

 第一弾(だいいちだん)として、十日に、福島県川内村(かわうちむら)の住民が一時帰宅しました。警戒区域の外に集合して、全身をすっぽりと(おお)防護服(ぼうごふく)を着用。放射線の量を測る機械(きかい)や、緊急(きんきゅう)の場合に連絡(れんらく)するためのトランシーバーなどを持ち、バスに乗って警戒区域に入りました。

 住民には、七十センチ四方(四十五リットル)のビニール袋一枚が配られ、この中に入る分量(ぶんりょう)しか荷物は持ち出すことができませんでした。印鑑(いんかん)通帳(つうちょう)手帳(てちょう)などのほか、アルバムを持ち出した人もいました。ただ、「二時間では短すぎる」という不満(ふまん)もありました。

 今後は、警戒区域となっているほかの自治体(じちたい)の住民も一時帰宅します。ただ、住民が全国に散らばっていたり、住民の避難先の住所がわからなかったりするために、一時帰宅できることを住民に簡単(かんたん)に連絡できず、困っている自治体もあります。

 警戒区域のなかには、地震で(かたむ)いてしまい、(たお) る恐れがある家もあります。こうした家に、どうやって住民を安全に一時帰宅させるかも重要(じゅうよう)な問題です。また、住民の中にはお年寄(としよ)りが多いことも気になりま す。警戒区域の中では防護服を脱ぐことができないので、これから気温が高くなってきた時、特にお年寄りの健康(けんこう)状態(じょうたい)が気になります。

不安は続く

 また、最近になって、原発は、燃料(ねんりょう)()け落ちてしまう「メルトダウン」という深刻(しんこく)な状態になっていることがわかりました。東京電力は、(すで)に発表していた予定を変更(へんこう) ることはせず、「来年一月までには原発を安定させる予定」と言っていますが、原発が深刻(しんこく)な状態にあることがわかったために、「本当に予定通りに原発を安定 させることができるのか」という不安も強くなっています。東京電力や国は予定通りに原発を安定させて、住民が自宅に戻ることができる方法やめどを示すこと が必要です。

(二〇一一年五月二十四日  読売新聞)